主引用例との相違点となる対象発明の構成が周知であっても、それだけでは、進歩性を否定できない。例えば、当該構成を、主引用例で用いる理由や動機づけがない場合には、進歩性が認められる余地がある。

 主引用例との相違点となる対象発明の構成が周知であっても、それだけでは、進歩性を否定できない。例えば、当該構成を、主引用例で用いる理由や動機づけがない場合には、進歩性が認められる余地がある。

 

判例No. 36平成22年(行ケ)第10351号 審決取消請求事件

 

1.本件発明について

 対象となった本件発明(特願2000-582314の請求項1)の記載は、次の「」内の通りです。

 

「【請求項1】

 飲食物廃棄物の処分のための容器であって、飲食物廃棄物を受け入れるための開口を規定し、かつ内表面および外表面を有する液体不透過性壁と、前記液体不透過性壁の前記内表面に隣接して配置された吸収材と、前記吸収材に隣接して配置された液体透過性ライナーとを備え、前記容器は前記吸収材上に被着された効果的な量の臭気中和組成物を持つ、飲食物廃棄物の処分のための容器。」

 

2.主引用例との相違点となる本件発明の構成

 本件発明において、次の構成Aは、主引用例(実開平1-58507号)に記載されていない。

構成A:

「液体透過性ライナー(裏張り)を吸収材に隣接して(すなわち、積層して)配置している」

 なお、本件発明と主引用例とで、液体不透過性壁に吸収材を積層する点は共通している。

 

3.相違点となる構成Aによる効果

 本件発明では、上記構成Aの液体透過性ライナーにより、次の機能Bが得られる。次の「」内は特願2000-582314の公開公報(特表2002-529347)からの抜粋です。

効果B:

「ライナーを設けることによって、飲食物の廃棄物および食べ残しを中に入れる過程で容器の中に手を入れる消費者は、液状の廃棄物でほとんど、あるいは完全に飽和された吸収材との偶発的で、望ましくない接触をしないですむ。」

 

4.周知技術

 周知技術では、吸収材が容器の内面から脱落することを防止するために、液体透過性ライナーを吸収材に隣接して(すなわち、積層して)配置している。

 

5.判示事項(独自解釈)

 相違点に係る構成Aが周知であるとして本件発明の進歩性を否定することは、周知の構成Aを主引用例に容易に適用できるかの検討・判断をしていないので、妥当でない。すなわち、周知の当該構成を主引用例に適用することが容易であるかについての検討が必要である。

 周知技術では、吸収性ポリマー(吸収材)を基材に付着させる場合、吸収性ポリマーが基材から脱落することを防止するために、ライナーを吸収性ポリマーに積層して配置している。

 これに対し、主引用例では、吸収性ポリマーは、その材料の性質と基材への被覆方法を考慮すると、基材と一体化しているので、基材から脱落することはない。

 したがって、主引用例において、ライナーを吸収性ポリマーに重ねて配置する必要はない。そうすると、主引用例において、上記効果Bを得るという目的で、ライナーを吸収性ポリマーに重ねて配置する動機づけはない。

 よって、主引用例において、ライナーを吸収性ポリマーに隣接して(積層して)配置することは容易に想到できたとする審決は妥当でない。

 

6.考察

 対象発明が、主引用例との相違点となる構成P(上記判例では、構成A)を有しており、この構成Pが周知技術であるとして、対象発明の進歩性が否定されている場合、次の(1)(2)に該当するかを検討する。

(1)(2)の両方に該当すれば、(1)(2)を主張することにより、進歩性が認められる可能性がある。

(1)(2)のうち(2)のみに該当しても進歩性が認められる可能性があると思う。(2)に該当すれば、主引用例で構成Pを採用する理由や動機づけがないからである。

 

(1)対象発明では、上記構成Pが周知技術と異なる機能Q(上記判例では、上記機能B)を得るために用いられているのに対し、主引用例には、当該機能Qを得ることについて何ら示唆されていない。

 

(2)周知技術では、上記構成Pは、機能Qとは異なる機能Rを得るため用いられているのに対し、主引用例において、機能Rを得る必要がない。

 

 なお、(1)については、請求項において、その機能が発揮されていることが明確な記載になっているかを検討する。そのようになっていない場合には、そのようになるように請求項を補正する。これにより、進歩性が認められる可能性が高まる。

 上記判例では、(1)(2)の両方に該当しているとして、進歩性否定の審決を取り消している。

 

 弁理士 野村俊博